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2K11クルーグ対空ミサイル・システム





NATOコードネームでSA-4「ガネフ」(Ganef:泥棒、詐欺師)と呼ばれる、ZRD-SD 2K11「クルーグ」(Krug:円)は(ZRD-SDとは中距離対空ミサイル・システムの略号)、1957年11月に配備が開始されたS-75「ドヴィナ」対空ミサイル・システム(NATOコードネーム:SA-2「ガイドライン」)の後継として、1958年2月15日付のソ連共産党中央委員会並びにソ連閣僚会議決定で開発が下令された。

「クルーグ」対空ミサイル・システムは装軌式自走ミサイル発射機、装軌式自走レーダー(長距離捕捉用と誘導用の2種)、再装填用ミサイル運搬トラックなどから成っており、この内の装軌式ミサイル発射機と誘導用レーダーには、ウラル運輸車両工場(ウラルトランスマシュ)が製作した共通シャシーが用いられている。
この共通シャシーは2S3「アカーツィヤ」152mm自走榴弾砲、2S4「チュルパーン」240mm自走迫撃砲、2S5「ギアツィントS」152mm自走加農砲にも用いられているものである。

アンテイ科学工業企業体が開発した3M8対空ミサイルを搭載する「クルーグ」システムは、1961年にはソ連軍に制式採用され、1964年のモスクワ赤の広場におけるメーデー・パレードで初めて一般公開された。
3M8対空ミサイルは全長8.80m、直径0.86m、発射重量2,500kg、弾頭重量135kgで、有効射程は8,000〜55,000m、有効射高は300〜27,000mとなっている。

ミサイル本体の周囲には発射時の加速用ロケット・ブースターが4基取り付けられており、後部の安定翼にトランスポンダー、前部の安定翼にレーダーの反射波を捉えるアンテナが取り付けられている。
同ミサイルの自走発射機は「2P24」と称されるが、この2P24自走発射機は最大厚15mmの装甲が施されており対放射線防御装置も備えている。

360度旋回が可能で仰角45度が取れるランチャーには、2連装で3M8対空ミサイル(今日では1967年に登場した改良型の3M8M1対空ミサイル(NATOコードネーム:SA-4A)と、1973年に登場した3M8M2対空ミサイル(NATOコードネーム:SA-4B)が併用されている)を搭載する。
2P24自走発射機3両(戦時は4両)と、同じシャシーの1S32自走誘導レーダー1両で1個大隊を編制し、3個大隊で1個旅団を構成する。

1S12自走長距離捕捉用レーダー(捕捉距離150km、捕捉範囲高度100〜30,000m)は旅団単位で1両が配属され、データを1S32自走誘導レーダーに伝達するようになっている。
その他、各大隊には再装填用ミサイル輸送車両や、低空侵入攻撃撃退用の対空機関砲部隊など(当初は牽引式の2連装23mm対空機関砲ZU-23、後にはZSU-23-4「シルカ」対空自走砲)が配属され、各野戦軍に1個旅団、方面軍(軍管区)単位に2個旅団が配属されることになっていた。

「クルーグ」システムは当初ミサイルに幾つかの欠陥が発生し、早くからの採用と公表の割に部隊への本格的な配備は1967年度頃まで見送られていたが、その後はソ連軍の野戦軍上空を守る防空システムの要として、各種中〜長距離対空ミサイル・システムや対空機関砲システムと共に重層的な対空火網を構成した。
そして現在、より進んだ後継システムに更新されつつあるが未だにロシア軍に多数が装備されると共に、ブルガリア、チェコ、ハンガリーなどで現役の対空ミサイル・システムとして使用が継続されている。


<2P24自走発射機>

全長:    9.46m
車体長:   7.50m
全幅:    3.20m
全高:    4.472m
全備重量: 30.0t
乗員:    3〜5名
エンジン:  V-59 4ストロークV型12気筒液冷ディーゼル
最大出力: 520hp/2,000rpm
最大速度: 45km/h
航続距離: 450km
武装:    3M8対空ミサイル連装発射機×1 (2発)
装甲厚:   最大15mm


<3M8M対空ミサイル>

全長:       8.80m
直径:       0.86m
翼幅:       2.73m
発射重量:    2,500kg
弾頭重量:    135kg
誘導方式:    セミアクティブ・レーダー
最大飛翔速度: マッハ2.5
有効射程:    8,000〜55,000m
有効射高:    300〜27,000m


<3M8M1対空ミサイル>

全長:       8.80m
直径:       0.86m
翼幅:       2.73m
発射重量:    2,500kg
弾頭重量:    135kg
誘導方式:    セミアクティブ・レーダー
最大飛翔速度: マッハ2.5
有効射程:    9,300〜72,000m
有効射高:    300〜27,000m


<3M8M2対空ミサイル>

全長:       8.30m
直径:       0.86m
翼幅:       2.73m
発射重量:    2,500kg
弾頭重量:    135kg
誘導方式:    セミアクティブ・レーダー
最大飛翔速度: マッハ2.5
有効射程:    11,000〜50,000m
有効射高:    100〜24,000m


<参考文献>

・「パンツァー2002年5月号 ソ連・ロシア ロケット/ミサイル車輌史(4)」 古是三春 著  アルゴノート社
・「ロシア軍車輌写真集」 古是三春/真出好一 共著  アルゴノート社
・「グランドパワー2020年4月号 赤の広場のソ連戦闘車輌写真集(4)」 山本敬一 著  ガリレオ出版
・「世界の軍用車輌(2) 装軌式自走砲:1946〜2000」  デルタ出版
・「大図解 世界のミサイル・ロケット兵器」 坂本明 著  グリーンアロー出版社
・「戦車メカニズム図鑑」 上田信 著  グランプリ出版
・「世界の戦車・装甲車」 竹内昭 著  学研
・「ミサイル事典」 小都元 著  新紀元社


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